「店舗オペレーション効率化」と「CX向上」の両取り?飲食店における「セルフ化」のトレンドに共通するもの特徴とは?

はじめに

最近スーパーやコンビニでセルフレジを見かけることが多くなってきたように感じます。2023年のスーパーマーケット年次統計調査(2023年 スーパーマーケット年次統計調査 報告書 « 一般社団法人全国スーパーマーケット協会 (super.or.jp))によると、セルフレジ設置企業の割合は31.1%(前年調査では25.2%)と、年々増加傾向にあるようです。

こうした「セルフ化」の波はスーパーマーケットやコンビニ業界にとどまりません。ガソリンスタンドではかなり昔からセルフ給油業態のサービスステーションが普及していましたし、博報堂WEBマガジン(ヒット習慣予報 vol.245『なんでもセルフ』 |博報堂WEBマガジン センタードット (hakuhodo.co.jp))によると、フィットネス業界ではコンビニジムとも呼ばれる無人の「セルフサービス型のジム」が話題になっているほか、薬局のセルフサービス化、「無人エステ」、「セルフ脱毛サロン」など従来は考えられなかった領域でも「セルフ化」は進んでいることを指摘しています。それだけ消費者はサービスの「セルフ化」に対し抵抗感を感じなくなってきているほか、無人、セルフならではの気楽さ・気軽さが受け入れられているということでしょうか。

九州地方でスーパーマーケットを運営するトライアルホールディングスは、人口知能(AI)を駆使した店舗運営の省力化などを先進的に取り組み過去10年で売り上げを10倍にした「リテールテック」の代表的な企業です。同社のスーパーマーケットでは自社開発のセルフレジ機能付きショッピングカートを導入しており、消費者はレジに並ぶことなく買い物を済ませることができます。また、レジカートのタブレットで商品をスキャンするたびに現在の合計金額が表示されるため、いちいち今いくらぐらい買ったかを計算しなくても済むほか、レジカートのタブレットに自動でクーポンや関連商品を表示されるなど、もはや店舗側の省力化というより”新たな消費体験”というCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)の文脈で語られるレベルまで「セルフ化」は進化していると言えそうです。

出典:TRIAL MAGAZINE(レジ待ち時間が最短4分の1に!トライアルのレジカートの使い方 - TRIAL MAGAZINE (トライアルマガジン) (trial-net.co.jp)

では、こうしたトレンドは飲食業界でも起きているのでしょうか。

筆者は起きていると感じています。それもかなり以前から。そこで今回は飲食業界における「セルフ化」の事例をいくつか紹介しながら、それらに共通する特徴を筆者なりの視点で考察してみたいと思います。

飲食業界におけるセルフ化の事例

くら寿司 ビッくらポン!®

最初の事例は回転すし業界からです。皆さんも一度は体験したことがあるのではないでしょうか。くら寿司の「ビッくらポン!®」はくら寿司株式会社が特許を取得している皿回収システムです。回収口に皿を5枚投入するとガチャが回せ、一定確率で「当たり」となり景品がもらえます。最近寿司一皿+10円追加課金することで、「当たり」確率をアップできる「ビッくらポン!®プラス」が登場したことで話題となりました。

出典:くら寿司株式会社(くら寿司の代名詞「ビッくらポン!®」が3回に1回必ず当たる 「ビッくらポン!プラス」が新登場~9月29日(金)全国導入完了~|くら寿司プレスリリース|くら寿司|回転寿司| (kurasushi.co.jp)

見た目や仕掛けに目が惹かれますが、このシステムの本質はお客様が自ら進んでお皿を片付ける動機付けにガチャガチャというツールを使っている「セルフ化」の事例と言えます。お客様自ら皿を指定の場所に入れてくれることで、退店時のバッシングの負担を大幅に省力化しているのです。

卓上レモンサワー

続いての事例は個社固有の事例ではないですが、テーブルにお酒をセルフで注げるサーバーが備え付けてある居酒屋の事例です。最近、レモンサワーを卓上のサーバーから直接注げる「セルフ飲み放題」を売りにした居酒屋をよく聞きます。

ファミレスのドリンクバーは、ドリンク什器が設置してあるバーカウンターまで出向く必要がありますが、これはテーブルにサーバーがあるため出向く必要すらありません。

都内中心に複数店舗を展開する居酒屋チェーン「仙台ホルモン焼肉酒場ときわ亭」は、卓上レモンサワーの先駆者といえるような存在です。居酒屋を運営するGOSSO株式会社の登録商標である「0秒レモンサワーⓇ」は、注文してすぐに(=0秒で)飲むことができるという意味で、店員のオペレーションを省力化する一方で、顧客に対し確かな価値を提供しているといえるでしょう。

出典:ときわ亭 お飲物 | 0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 (zero-tokiwa.com)

セルフ焼きハンバーグ

続いての事例は、自分で好きな焼き加減に焼きながら食べる「セルフ」ハンバーグ店の事例です。王様のブランチでも紹介された「極味や」は表面が軽く焼かれただけのレアの状態でハンバーグが提供され、仕上げの焼き作業は目の前の鉄板でセルフで行うというスタイルのハンバーグです。ランチ時は100人以上の大行列とのことで、一見自分で焼くことが面倒なようにも見えますが、かなり評判のようです。お店側からすると提供までの時間短縮に繋がり、席回転率も高まるのでしょうか。回転率が重要なランチメインの業態とマッチするアイデアです。

出典:ハンバーグがレアのまま出てくる⁉大行列の鉄板焼き店|王様のブランチ|TVerプラス テレビ番組最新情報&エンタメニュースまとめ

セルフうどん

最後の事例は、めんのゆがきから、だし・薬味入れ、食後の食器片づけまで完全セルフなうどん店の事例です。関東在住の筆者は、天ぷらのピックアップや薬味をセルフで入れるうどん店には馴染みがありますが、うどんの本場香川県では、めんのゆがきまでセルフで行うお店が結構存在することを知りました。地元の人からすると普通のことかもしれませんが、観光客からしてもおいしいうどんを自分で作れるという体験自体が楽しいかもしれませんね。

仮に会計もセルフレジとすれば、本当に店員は必要最小限で店舗オペレーションが可能です。

出典:お店のタイプを知ろう|讃岐うどん|うどん|香川県観光協会公式サイト - うどん県旅ネット (my-kagawa.jp)

飲食店の「セルフ化」に共通するものとは?

これまで4つのセルフ化の事例を見てきました。これらの事例に特徴することは何なのでしょうか?

共通するのは、従来店舗側がお客様に提供する役務(サービス)を切り出し、「セルフサービス」としてお客様に行っていただくことにあります。

こうしたセルフサービス化の店舗側の狙いは当たり前ですが店舗オペレーションの省力化、人件費の削減です。しかしながらセルフサービスは、お金を払っていただくお客さまにわざわざ手間をかけさせるわけで、何らかのメリット、インセンティブがないと受け入れてくれません。

フルサービスとセルフサービスの違いで、分かりやすいのはガソリンスタンドでしょう。セルフのガソリンスタンドは、店員が給油してくれるフルサービス型よりもガソリン価格がリッター数円程度安いのが一般的です。つまりは、「価格」という明確なシグナルを通じてお客様にセルフサービスを許容させているのです。

では、今回見てきた4つの事例は「(低)価格」が特徴なのでしょうか。結果的にセルフサービス化により安い価格で飲食サービスを提供できている、という側面もあるにはありますが本質はそこではないと考えます。

ずばり、筆者が考える共通する特徴は、飲食サービスの”エンタメ化”です。店員がやるのではなく、自ら作ったものを食べる/飲む、自ら片づける体験そのものが飲食体験と結びつき、そうしたエンターテインメント性を消費者が受け入れているのではと考えます。そうしたポジティブな感情を想起する体験にセルフサービスが変化しているので、消費者は自ら進んで店舗運営のための役務を買って出ているのです(消費者にとって苦痛を伴わないことが”ミソ”)。

終わりに

いかがだったでしょうか。昨今の物価上昇により原材料や人件費が高騰している昨今、店舗オペレーションの効率化等でコストカットすることは中々現実的ではなくなってきました。配膳ロボットなどテクノロジーを活用するにも初期投資がかかるため、なかなか導入に踏み切ることは躊躇いがあります。

こうした中、セルフサービス化による店舗オペレーションの省力化はコストカットのための有力な手段であるほか、今回紹介したような”エンタメ”要素を盛り込むことで、CX(顧客体験)、マーケティング文脈でのメリットを両取りできることにつながります。店舗効率化したいというニーズのみならず、販促効果を高めたいという店舗経営者の方にも参考になったのではと思います。このように、店舗効率化や少し尖った販促、マーケティングの取り組みについて今後も記事にしていきます。「飲食店で実施できる販促方法を知りたい」、「店舗運営を効率化する取り組み事例が知りたい」などの関心がありましたらぜひ下部の関連過去記事もご覧いただければと思います。

当研究会には飲食店経営診断の知見を有するメンバーが多数在籍しており、補助金申請に向けた相談を受けることも可能です。是非お問い合わせページよりご相談をお待ちしております。

当研究会では中小企業診断士資格を持つ様々なメンバーが、飲食店の診断実務ができる人材の育成と組織体制の構築を目的として、会員の経営診断技術の研鑽や、研究会の診断ノウハウの蓄積を行っております。

具体的には、研究会(月1回)の飲食業界に関する調査研究や、オープンセミナーの開催、プロジェクトチームでの飲食店支援実務など、幅広く活動しております。

(詳細は「研究会活動」「提供サービス」のページをご覧下さい)

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です