チンチロハイボールのマーケティング的考察

「ゾロ目が出たらハイボール無料」
こうしたキャンペーンを実施している飲食店に皆さん一度は入ったことがあるのではないでしょうか。「チンチロハイボール」とも呼ばれていますが、飲食店を経営されている方にとっては、導入するメリットがあるのか気になるところ。今回はこのチンチロハイボールについて「マーケティング」、「販促」の観点でどのような効果を期待しているのか、実際に売上は増えるのか、について少し真面目に考察してみたいと思います。

チンチロハイボールとは何か

チンチロとは何か

そもそもチンチロとは何でしょうか。チンチロとはサイコロを使った博戯です。丼(茶碗)に2個ないし3個のサイコロを振り、出た目の組み合わせによって役が決まるルール仕組みです。チンチロという名称はサイコロをお椀に投げ入れる際の音から付けられたようです。
アニメ化、実写映画化もされた日本で大人気の漫画「カイジ」で存在を知った方も多いのではないでしょうか。

出典:アニメミル「【カイジ】作中で登場したギャンブルまとめ」

どんな店で流行っているのか

どんな店がチンチロハイボールというメニューを提供しているのでしょうか。チェーン店ですと「串カツ田中」さんが有名だとおもいます。

出典:串カツ田中

最近はハイボールだけでなく、各種サワー類も対象となっているみたいです。
例えば定番のジムビームハイボールは定価399円(2023年3月時点)ですが、チンチロでゾロ目(2個のサイコロを振って、両方とも「1」と「1」など)が出ると1杯無料、出た目の合計が偶数ならば1杯半額、奇数ならば倍量のメガジョッキ(定価も通常の2倍)を注文しなければいけないルールです。

その他にも比較的小規模なチェーン店や個人経営のお店でも実施されているお店は多いと思います。

お客様はどのような動機で注文されるのか

それではここからはチンチロハイボールをマーケティング観点で考察してみたいと思います。まずは、お客様の視点ではどのような動機で注文をされるのか、実体験も踏まえて考えてみます。

経済的インセンティブ

まず考えられるのは、いい目が出ればタダになるかもしれないという経済的な動機ではないでしょうか。チンチロハイボールのシステムは「串カツ田中」さんの例でいえば、2個のサイコロの目がゾロ目であれば注文したドリンクが1杯無料になります。やはり人間「タダ」というのには弱いですよね。

また、チンチロハイボールの良いところは、ハズレ目が出たとしても決して損するわけではないところです。ハズレ目の場合、金額が2倍のメガジョッキを注文することになりますが、量も2倍です。したがって、外れたとしても通常のギャンブルのように無駄にお金を支払うというわけではないのです。

エンタメ的インセンティブ

もう一方の動機として、飲み会が盛り上がるエンタメ的な動機があるのではないでしょうか。チンチロハイボールを注文すると、店員さんがサイコロとお椀を持ってきてくれます。もし、当たり目が出ると店員さんがパフパフと音がなるラッパで盛り上げてくれます。ちょっとした店員さんとのコミュニケーションにつながりますし、こういったエンタメ的な要素は複数人で飲食する場合には会話が弾むきっかけにもなります。

チンチロハイボールを導入するお店側の狙いは

次にお店側の視点でチンチロハイボールを導入する目的を販促やマーケティングの観点から考えてみたいと思います。

注文数アップ

まずはお客様一人あたりの注文数の増加が期待できます。外れた場合は「次こそは当たるかもしれない」と、当たった場合も「次も当たったらタダになるから」と2杯目以降の注文が期待できます。

注文単価アップ

少し驚きかもしれませんが、注文単価の上昇も期待できます。「串カツ田中」さんを例にとっても、ゾロ目が出ればタダ、2つの目の合計偶数ならば半額と、一見お客様に有利で単価は下がりそうですが、サイコロの出る目の確率で考えてみます。

通常のハイボール注文の場合

ジムビームハイボール399円(計算簡略化のため約400円)と仮定します。

チンチロハイボール注文の場合

2個のサイコロを振って、出る目の組み合わせはの次の6×6=36通りです。

無料2倍半額2倍半額2倍
2倍無料2倍半額2倍半額
半額2倍無料2倍半額2倍
2倍半額2倍無料2倍半額
半額2倍半額2倍無料2倍
2倍半額2倍半額2倍無料

ゾロ目(無料)となる確率:6/36=1/6
偶数(半額)となる確率:12/36=1/3
奇数(2倍)となる確率:18/36=1/2

よって注文単価の期待値は、
400*0*1/6+400*1/2*1/3+400*2*1/2=466円となり、通常のハイボール注文よりも約60円も単価引き上げにつながるのです。

他のお客様への波及効果

次に考えられるのは、他のお客様への波及効果です。チンチロハイボールを注文された場合、サイコロを振る際の音や盛り上がる声、店員さんとのやり取りなど、意外と店内では聞こえるものです。何か盛り上がっている卓があるときに「何だろう?」と思うことはないでしょうか。ゾロ目など当たり目が出たときに店員さんも盛り上げてくれるお店が多く、こうした雰囲気は間接的に他のお客様がチンチロハイボールを注文するきっかけになっているのではないでしょうか。

オペレーションの効率化

最後にオペレーションの効率化というドリンクの配膳オペレーションにも触れてみます。統計的な裏付けがあるわけではありませんが、チンチロハイボールを一度注文すると、次も注文する方が多いのではないでしょうか。これは「注文数アップ」の項目で述べたように、「次の注文でいい目を出したい」という人間の心理から来ているものではないかと思います。毎回バラバラなドリンクを注文されるより、お店全体でチンチロハイボールの注文割合が増えることで、ドリンクの配膳効率が高まるという副次的な効果も見込まれるのではないでしょうか。

他の業界で類似の事例はあるのか

少し視点を変え飲食店以外の業界で類似の事例がないのかを考察してみます。「サイコロを振って、出た目が〇〇なら…」というルールまで同じものは見つけられませんでしたが、「一定の確率で当選された消費者に、注文代金が無料になる」手法をマーケティングに取り入れている事例をご紹介します。

PayPay「超ペイペイジャンボ」の事例

バーコード決済サービスであるPayPayは、PayPayで決済した際に最大100%を還元するキャンペーンを行っています。還元金額は固定金額ではなく、決済金額に当選した等数の還元率で決定します。「もしかしたら1等(全額還元)が当たるかも!?」、「どうせ当たるのなら小額ではなく大きい金額のときに当てたい」という消費者の心理を利用して、PayPayの決済金額を増加させることを狙ったマーケティング事例といえます。

出典:PayPay株式会社(https://paypay.ne.jp/event/matsuri202202-paypay-jumbo/)

ZOZO「赤いZOZO箱で届いたら無料(タダ)!?キャンペーン」の事例

同じような事例として、ファッションECサイトを運営するZOZOが、ZOZOTOWNでお買い物をされた方の中から抽選で3,000名様に「赤いZOZO箱」で商品をお届けし、ご購入金額分のZOZOポイントを還元しお買い物が実質無料になるキャンペーンを実施した事例があります。

出典:株式会社ZOZO(https://corp.zozo.com/news/20211229-17419/)

終わりに

いかがだったでしょうか。飲食店で設備投資や新規メニュー開発をせず、注文数や客単価を引き上げる施策として、チンチロハイボールは取り組みやすい施策なのではないかと感じました。エンタメ的な要素が含まれるため、店内の雰囲気活性化やお客様とのコミュニケーションの増大といった副次的な効果も期待できます。このように少し尖った販促、マーケティングの取り組みについて今後も記事にしていきます。

過去にも販促やマーケティングに関するより詳細な記事を投稿していますので、「飲食店で実施できる販促方法の全体感が知りたい」、「具体的な販促キャンペーンのやり方が知りたい」などの関心がありましたらぜひご覧いただければと思います。

当研究会には飲食店経営診断の知見を有するメンバーが多数在籍しており、補助金申請に向けた相談を受けることも可能です。是非お問い合わせページよりご相談をお待ちしております。

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